乾燥が原因で起こる子どもの肌トラブルはこれで解決!

2013. 10. 22  日経メディカルオンライン

写真1 口唇の乾燥と口唇周囲の乾燥発赤を主訴に来院した9歳男児。
写真1 口唇の乾燥と口唇周囲の乾燥発赤を主訴に来院した9歳男児。
著者プロフィール 横井茂夫(横井こどもクリニック院長)●よこ いしげお氏。1975年慈恵医大卒。国立大蔵病 院・都立母子保健院を経て、1998年より現 職。医師国家試験対策予備校のテコムで小児 科の授業を34年間担当し、医師国家試験と CBTの模擬試験問題や解説書を作成してい る。乗馬、落語鑑賞、料理が趣味。
著者プロフィール 横井茂夫(横井こどもクリニック院長)●よこ いしげお氏。1975年慈恵医大卒。国立大蔵病 院・都立母子保健院を経て、1998年より現 職。医師国家試験対策予備校のテコムで小児 科の授業を34年間担当し、医師国家試験と CBTの模擬試験問題や解説書を作成してい る。乗馬、落語鑑賞、料理が趣味。

冬の乾燥した環境は、乳幼児にとって肌トラブルを誘発する環境要因になります。

次のような場合、あなたならどうしますか。

 

Q 生来健康な9歳の男児。毎年11月になると口唇の乾燥と口唇周囲の乾燥発赤を生じ、受診する。診察時、口唇は乾燥し、細かくひび割れている。口唇周囲は発赤し、しきりに舌で口唇を舐めることを繰り返している(写真1)。冬の乾燥期に多い舌舐めずり皮膚炎と思われる。対応として適切なのはどれか。

1)口唇を舐めないように注意する

2)マスクを掛けるようにする

3)弱ステロイド軟膏を塗布する

4)リップクリームを塗布する

5)抗菌薬軟膏を塗布する

 

 今回取り上げたのは皮膚科の成書にも記載されている、舌で口唇を舐めるのが原因の「舌舐めずり皮膚炎」です。冬季・乾燥期に出現し、幼児学童の男児に多く見られます。指しゃぶり、爪噛み、舌舐めずりなどの子どもの習慣による疾患ですが、それを止めさせようと子どもに注意し、叱るのはほとんど無効です。さらに、逆効果になる場合も多いです。

 

 一般的には、13回の弱ステロイド外用薬と保湿剤の塗布が推奨されています。それに加えて、昼間に紙マスクを着用させると、口唇周囲の湿度が増すため、痒みが軽減し、舌舐めずりそのものが減少します。これらのケアによって、約3日間で症状は改善し、口唇も舐めなくなるでしょう。

 子どもの場合、リップクリームを塗ってもすぐに舐めてしまうため、入眠後と覚醒前に塗ると有効です。細菌感染の合併はないので、抗菌薬、軟膏はいりません。

 これらの理由から、答えは(2)マスクを掛けるようにする、(3)弱ステロイド軟膏を塗布する、(4)リップクリームを塗布する、となります。

 治療をする際には口周りの症状だけを診てはいけません。舌舐めずり皮膚炎は、鼻閉のために口呼吸をするアレルギー性鼻炎に合併しやすいからです。受診時に耳鏡を使用して鼻腔の診察も行い、鼻閉が強い場合はその対応も行う必要があります。

 

冬肌・乾燥肌の手入れ法

 子どもと女性の皮膚における、皮脂成分の分泌を促す男性ホルモンの量は、思春期以降の男性に比べて少ないのが特徴です。そのため冬は子どもも母親も皮膚が乾燥し、かさかさしていることが多いのです。さらに毎日の入浴で石鹸やボディーソープをスポンジに付けて皮脂成分を洗い流していると、皮膚の乾燥がより進んでしまいます。

 

1)冬季はまず風呂で体を洗わない

 つまり、冬季は、石鹸やシャンプーをなるべく使用しない方がいいのです。そのため当院では母親が皮膚の乾燥を訴えた場合は、以下のように指導しています。「1010日から来年春の55日まで石鹸を使用するのはお尻の周りだけにして、他は洗わないように。髪の毛も、シャンプーの使用は3日に1回にしてください」。その上で保湿の外用剤を12回塗布してもらうと、皮膚の乾燥状態が改善します。

 

2)ひび・あかぎれの手には原因がある

 10月に入り、皆さんが勤務する医療機関でもインフルエンザの予防接種が始まっているのではないでしょうか。酒精綿に繰り返し触れる皆さんの指先は、荒れてカサカサになっていませんか?

 子どもの手荒れの原因といえば、昔は砂遊び・泥遊びでした。しかし、今の子どもの手荒れの原因は昔とは異なります。1つは、入浴時に子ども自身がポンプ型のボディーソープやシャンプーを押して泡状の洗剤を手に取り、体や頭に付ける時に皮脂成分が取れてしまうこと。2つ目の原因は、インフルエンザやノロウイルス感染の防止対策で、幼稚園や保育園で行われているうがいと手洗いの励行です。

 子どもは真面目に指先から手首までアルコール系の消毒薬や石鹸で指示通りに丁寧に

洗っていますが、その後に保湿剤は塗布していません。すると皮脂成分が取れて乾燥するため、手荒れが起きてしまうのです。保護者が手荒れの原因に気付き、皮膚のケアに気を付けるだけで、手荒れは改善します。

 

3)冬は保湿剤をたっぷりと

 では、どんな保湿剤で皮膚の状態を整えればよいのでしょうか。保湿剤の種類には、

ローション、クリーム、軟膏と3つのタイプがあります。

 大人には塗りやすく塗布後にべたつかないローションタイプが好まれますが、保育園・

幼稚園・学校に通う子どもには、保湿効果が持続する軟膏タイプを勧めています。子どもに保湿剤を塗布する場合、起床時と入浴後の12回が限度です。入浴時にボディーソープやシャンプーを使わないようにしてもらい、保湿剤を1210日間塗布すると体全体の皮膚がしっとりとしてくるはずです。ちなみに、保湿剤として私はヒルドイドソフト軟膏・プロペト等量混和を処方しています。

 

しもやけの足に綿靴下は禁!

 冬になると手足が冷えた子どもが、「しもやけ」を起こし、足底の皮疹、かゆみ、痛みを訴えて来院します。そんな患者に靴下を勧めてはいませんか?

 外来でしもやけの子どもの足を触ると、健全な子どもの足を触ったときと比べて冷えており、さらに汗で湿っていることが多いです。

 子どもの靴下は綿と化繊の混紡がほとんどですが、綿繊維は吸湿性には優れるものの、

蒸散性は劣ります。つまり、一度濡れると乾きにくい性質があるため、汗を吸うとそれが冷え、しもやけを増悪させてしまうのです。

 そのため、しもやけの足には綿靴下ではなく、ユニクロの「ヒートテック」などに用いられる吸湿発熱素材やアクリル素材の靴下を昼から夜まで1日中履くように指導します。するとたいてい症状が改善します。また、朝出かける際にドライヤーで靴の中を温めたり、入浴後にザーネ軟膏を塗布しつつ足をマッサージしたりするのがよいと保護者には説明しています。

 

秘密兵器は使い勝手の良いワセリン

 今回私の秘密兵器としてご紹介するのは、プロペト(白色ワセリン)です。

 この白色ワセリンは、眼科用軟膏として使われており、一般用として安価に販売されている白色ワセリンと比べて不純物が少なく、水分含有量が多いため、寒い時期でも固くならずに塗りやすいのが特徴です。当院では保湿剤のヒルドイドソフト軟膏とプロペトを等量混和して処方しています。もちろん白色ワセリンなため、少しべとつきはしますが、保湿性に優れ、冬の皮膚状態をケアするのには好評です。

 このプロペトは使い勝手がよく、そのほかにも座薬の先に付けて座薬挿肛をスムーズにする際にも使えます。また、鼻出血時に鼻腔に詰める綿球に塗ると、出血部位がかさぶたにならず、再出血が少なくなります。

 擦り傷にも使用できます。幼児が転倒して膝を擦りむいた際に、お湯で汚れを洗い落とし、タオルで水分を拭き、プロペトを塗った後にサランラップで覆います。11回は患部を水やお湯で洗うように指導し、あとはネット包帯で包んでおけば、たいていの擦過創は2日で治癒します。ただ、この処置を説明する際には、念のため保護者に感染徴候があれば来院するように伝えておく必要もあるでしょう。