在宅医療

在宅医療が旬である。

来たるべき高齢化社会を迎え、医療費を削減したい政府の方針に合致するものとして推進されている。

保険診療報酬も手厚くされているので、必然的に開業医から中小の病院まで・・・中には大学病院でも、在宅医療にシフトしてきている。


我がクリニックも救急医療をメインに掲げてはいるが、夜間の人件費と診療報酬を天秤にかけると、非常にコストパフォーマンスが悪く、下手をすると赤字の月が出てしまうので、最近は在宅診療も行い始めた。

そういう意味では、我がクリニックの在宅は動機が不純なのである。

ただ、やるからには患者さんに対して手を抜くようなことはしていないつもりだが・・・評価は患者さんやご家族に聞いて欲しい。


さて、しばらく在宅医療に関わって感じたのだが、この在宅という制度・・・どうも先行き怪しく思えてきた。

単純に考えても、診療の効率は悪いので、一人の医者が1日に診れる患者の数は、せいぜい10人程度。一般外来の2割程度だ。

この先の約10年で、介護が必要とされる人は現在の550万人から700万人に増えると予想されている。

1.3倍である。

これに対して、この先10年間に増える医師の数は約5万人。

しかも在宅医療に取られてしまっては、どう考えても医師不足が助長されるのだ。



日本政府は高齢化が騒がれ始めたこの十数年、様々な方策を打ち出しては衰退させてきた。

急性期型病院と長期療養型病院に分け、長期療養型に手厚い診療報酬を付けたかと思ったら、ベッド数が増えすぎたために急に診療点数を下げた。

在宅医療に手厚い保険点数を付けたかと思えば、今年の改定では一気に減額し、介護難民を増やした。

まさに迷走状態、ネコの目政策・・・医療者側から言えば、屋根に登らせておいてすぐにハシゴを外す・・・そんな状態なのである。

今後、在宅医療に進出する医師が増えれば、当然のように報酬減額となるであろう。

そうなると医療側にも全くうまみは無くなってしまう。


単に医療費削減のための医療政策から、患者本位の医療政策に転換し、支払う側も受け取る側も真摯に高齢化の対策を考える必要がある。